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展示風景 "反転する背景のための風景",Gallery metabo(Kyoto),2025

17世紀後半〜18世紀にイギリスやフランスの上流階級で流行したGrand Tourでは、イタリアの田園風景を理想郷(Arcadia)とし、そのアルカディア的風景画をお土産として持ち帰る若者が数多く、その風景画はイギリス庭園の造形に影響を及ぼし、ロマン主義的感性の芽にもなりました。

このように理想郷として描かれた風景は実際の風景にも影響を与え、平面から三次元や思想にまで広がります。「アルカディア的風景」が理想と現実の間を行ったり来たりする中で私たちは暮らしのあり方をより良い方向へと押し進めてきましたが、その狭間からこぼれ落ちたノイズは見過ごされ、今日の世界を巡る様々な課題へと変容していったように思います。

 

私の2024年までの制作では自身の存在の知覚を絵画空間に描くために、余分な要素を省くため、集めてきたモチーフを卓上に構成し箱庭的な絵画を制作してきました。

しかし、メルロ=ポンティが「世界とは、私が触れるよりも早く私に触れてくるものだ」と述べたように、存在は常に自己完結的ではなく、外部からの作用に開かれた可変的な現れとして立ち上がります。主体と客体は常に影響を与えあい、立場を入れ替えながら存在している。そのあいだに生じる「ノイズ」こそが、存在を形づける不可欠な要素なのではないかと考え、制作のモチーフを匿名性のある箱庭的イメージから、土着的なノイズを含む風景へと移行しました。

この移行の足掛かりとして、まずは私が生まれ育った家の裏手に流れている川(鴨川の下流)の川辺を観察しました。そして今回の展示では、今までは邪魔で描いてこなかった石に覆い被さる枯れ草や植物を絵画空間に取り込み、川辺に流れ着いた人工物に、そのすぐ近くに生えていた植物のドローイングをサイアノタイプで焼き付けた写真作品を展示しています。

 

今まで自分にとってノイズだったものたちを作品に取り入れることで、風景が持つ複数の時間軸の階層を表現できないかと模索しています。

©misa_shinshi

 
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